今日は台湾南部に、超大豪雨が到来しており、さすがに同じ宿に連泊し停滞することにした。
昼食を食べようと宿の周囲を散策していると、街の一番中心の道路が集まるロータリーの中央に、日本統治時代にこの地から甲子園に出場した投手の銅像がたっていた。
台湾本塁KANO精神
棒球原郷在嘉義
とある。
KANOとは台湾日本統治時代の1931年に甲子園出場を果たした嘉義農林学校の日本語読みである。
日本語読みの言葉が嘉義市内の最も目立つロータリーの中央に赤字で掲げてあるのだ。
当時、台湾代表として全国中等学校優勝野球大会へ出場するのは、決まって日本人のみで構成された台北一中や台北商業だった。
当時弱小のチームだった嘉農野球部に近藤兵太郎が監督に就任すると彼は日本人のみを贔屓することなく、守備に長けた日本人、打撃に長けた漢人、韋駄天の如く足の速い高砂族の選手たちのバランスの良いチームを作り上げていく。
そして台北の日本人のみの強豪チームを破り、台湾代表を獲得する。
嘉義の街は大歓声で沸き返った。
甲子園で嘉農は順調に勝ち上がっていく。
やっかみ半分の日本のマスコミには嘉農の選手たちには「日本人の子は手を挙げて」「日本語は理解できるのか」などとつまらん質問をする者がいたが、近藤監督は民族を問わず「同じ球児だ」と、生徒たちを守る。
嘉農は準決勝の対小倉工業戦も、10-2で圧勝し。魂のこもった姿に日本人の野球ファンをも魅了し、決勝戦では超満員の観衆が甲子園に詰め掛けた。
決勝の相手は名門の中京、嘉義市内ではラジオ中継に市民が狂喜乱舞した。
しかし、銅像になっている嘉農のエースピッチャーの呉明捷(愛称は”アキラ”)の指は限界を超え出血し始めていた。
近藤監督は降板させようとし、チームメイトとともに激しい意見が交わされる。結局、アキラは続投するがフォアボールを連発し、押し出しで得点が入ってしまう。そこに守備の選手たちが「俺たちが守るから、敵に打たせろ」と叫ぶ。
ベンチの選手たちはアキラの応援歌を絶唱する。結局、中京商に完封に抑えられ、優勝はできなかった。しかし、嘉農の最後まで諦めない奮闘ぶりは日台それぞれの人々に強い印象を残し、スタンドでは「天下の嘉農」との声が湧き上がり。その声はどんどんと大きくなり、やがて観客席全体から響き渡った。(KANO 1931海の向こうの甲子園より)
KANO精神とは
一球入魂、粘り強さ、強い意志に加えて
「球場倫理(球場のマナー)」
「多民族融合(多民族構成)」
「族群關懷(民族の違いを問わない思いやり)」
「堅毅奮戰不服輸(負けず嫌いで粘り強く戦う)」、
「台灣世界級(世界レベルの台湾)」
である。
これらが現在も街の最も目立つところに日本語読みのKANO精神として掲げられ、受け継がれ、大切にされて来た。
私が今泊まっている宿のロビーにも甲子園で響き渡った「天下嘉農」のモニュメントが壁に掲げられている。
今日立ち寄った店ではどんなに小さな店にも日本語のメニューがあった。
夕食は近くのデパートのようなところのレストラン街で食べたが、約半数は日式を掲げている感じだ。日式ラーメン、日式とんかつ、日式しゃぶしゃぶ、日式牛丼、・・・
こんなのもあった。
「地表最強」焼肉丼とはまた大仰な!
かように嘉義の人々の志はでかい。
ここでも「いただきます」添えてある。
日本語はおしゃれなのだろう。
私たちは、こんなところまできて日式の食事をするのも、あれなのでタイ料理を食べてみた。
タイ式のミルクティー。
シロップを入れなくてもしっかり甘かった。
しかし、何でねじるふたができるコップになっているんだろう?おしゃれなのかな。
まずはエビのすり身などを揚げたて出だしてくれた。
中央の甘酸っぱいソースで食べます。
グリーンカレー、ココナツミルクがコクがあってとてもクオリティが高い。
ひき肉とトマトのカレー的炒めもの。
トマトが濃厚でうまし。
タイ式ピリ辛野菜炒め。
ご飯は食べ放題。
タイ式の銀色の変わったおひつ?に入れてもってきてくれます。
ココナツミルクで味がマイルドになっている。
黒いのはもち米。楽しい食感のシャーベット。
給仕も非常にしっかりしており、このクラスになるとしっぱなディナーである。お店もとってもおしゃれ。
帰りに一階の二重焼き屋さんでおやつを買った。
嘉義の女性は非常に有能で、このお店をひとりでこなしている。
人通りの最も多い、出入り口の正面にある。
自分で器用に二重焼きを焼き、包んで提供し機械を操作し、接客も上手だ。
このコーナーに彼女以外にスタッフは誰もいないのである。お金もきちんと扱い、不正もないからだろう。
日本人にももちろん勤勉な人は多い。
アメリカを旅している時、ちょっとしたことを聞きたくて店員さんに話しかけたら、列に並べとジェスチャーされた。
日本人ならああケチャンプはこちらです、と同時に対応してくれるが、アメリカ人に同時複数の対応は絶対にできない印象がある。
日本人も優秀だがこの嘉義の台湾女性は非常に有能だ。
日本にもこういう店はよく見かけるがたいていは複数のスタッフががいるのではないか。
この女性はまったくひとりで、他に指導監督する人もいなければ、作業を手分けしたり相談する人もいない。
すべて自分で判断し、自分だけですべての仕事をやっているのだ。
もし、同じような店を運営するのに日本では複数のスタッフが必要であるなら、日本は台湾に勝ち目はない。
日本人が教えたKANO精神は、もはや日本では失われつつあるのかもしれない。
日本ではせいぜいアンコとクリームの2種類くらいしかないが、この台湾女性はこんなにたくさんの種類を、ひとりで売れ行きを予測しながら、品切れを起こさなように、焼きたてを提供しているのである。
私は日本では珍しいタロイモの二重焼きを食べてみた。
ほくほくしてうまい。
こんな優秀な女性たちが台湾の繁栄を支えている。