ビジャ・フランカとはフランス人の村という意味で、11世紀にフランス人が入植した村だそう。
これらのブドウも彼らがもちこんだのだろうか。
アレックスは、声帯を手術していて声が出にくい。
時々発作を起こして苦しそうにしている。
アレックスとは、時々道中で顔をあわせることがあり、お互いに「ブエン カミーノ!」(よい巡礼を!)と声をかけたり、やあまた会ったねという感じで手をあげて挨拶を送りあったりしていた。
(ブドウ畑の小屋の日陰で足を投げ出すアレックス)
ビジャ・フランカのアルベルゲ(巡礼宿)では、アレックスは私より少し遅れて到着した。
宿のスタッフはあてがわれたベッドにいた私のところにやってきて、「彼とベッドを代わってくれないか、彼は体が悪いので」と言ってきた。もちろん喜んで代わった。
二段ベッドの二段目は登り降りがあり、土ぼこりにまみれているリュックはベッドにあげてはならないルールになっているので、なにかと不便なのだ。
私は彼に一段目のベッドをあけ、二段目にあがった。
彼はベッドに座り込むと発作を起こしむせこんだ。
アレックスは、他の人に迷惑をかけまいと、咳をひっしに押さえ込んでいる。
浄化をするとすぐに彼の発作は引いた。
前泊地のポンフェラーダでも、遠くで咳をしている人がいるなと思ったらアレックスだったのだ。
こんな発作を抱えながらも彼のカミーノ(巡礼)は5回目なのだという。
このスペイン巡礼は、健康な者でも決して楽なことではない。
内陸性気候で日中は気温があがる。
その熱いスペインの太陽が照りつける中、10キロくらいの自分の荷物を背負って、毎日20キロから30キロは歩き続ける。
マメはできるのが当たり前で、杖をつき、びっこを引きながら歩き続ける人もいる。
若い人でも途中で倒れる人もいる。
お互いに「Are you OK?」と声をかけて歩くが、脱落する人も少なくない。
アレックスと一緒になったビジャ・フランカの宿では夕食を全員で食べる。
食事前にはカラン、カランと鐘が鳴らされ、皆が集まってくる。
遅れて来たアレックスは、ここでも私の隣になった。
それで彼のことがわかったのだ。
スペイン人のアレックスは英語がほとんどしゃべれないので、向かいに座った気さくで小柄なイタリア人女性が通訳してくれた。
食事を食べる前は、全員が立ち上がり手をつなぐ。世界中から集まって来た見知らぬ者どうしがこうして手をつなぎひとつの輪を作るのはとても不思議な感じがする。全員がつないだ手を高くかかげている間、宿のスタッフが気持ちを込めた挨拶をした。
愛とか平和とか許しとか、そしてみんなでサンチアゴに向かって頑張ろう!というような意味だとイタリア人女性が教えてくれた。
アレックスは涙をぬぐうしぐさをして、「とても感動的な話だった」とゼスチャーした。
そのあとはワインを飲みながら、みんなでわいわい話す。
そこでアレックスのことも詳しくわかったのだ。
今日からは最後の難関、オ・セブレイロ峠に向かい登りが始まる。
朝一番のまだ暗い間に出発したアレックスは、大きく息を吸いながら一歩一歩登っているに違いない。